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短編作家の独白(またはいかに9月号デパート②弘中氏作が巧い作品か、という話)

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 短編詰将棋の創作のポイントは「いかに狙いを品質高く詰め込む舞台を用意できるか」ってのが持論でして。特に私の場合、「一手のインパクト」を重視するタイプですが(前回記事参照)、そのインパクトはやはり舞台装置の良し悪しで伝わり方がだいぶ違うと思うのです。
 今年、自分は打診移動中合というちょっと珍しい作品を6月に発表しました。ちなみに打診移動中合自体の作例は前にもあります。有名な作品ですのでご存知の方も多いかもしれません。(ちなみにこれより前に作例があるかどうかは知りません)

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 動く将棋盤も載せてみました。何度見てもワケわからないスゴイ手順で、これだけの複雑なシステムを良く制御できたものだな、と今でも感心します(なお、同年4月号の結果稿で作者の解説も載っています)。
 一方で打診移動中合というテーマ単体ならば、どちらかというと短編向きだよね、という思いもありまして、何年か前に取り組んでました。が、このテーマですと、
①打診移動中合ということは、他の打合だと早く詰む必要がある
②打診移動中合を成で取ると、その後打歩詰に誘致する手順が成立する
③一方で打診移動中合を生で取ると、生で取ったことにより玉方が逃げ方等で抵抗する手順が成立する
④で、成で取るか生で取るかのどちらかで、駒も余らせず詰ます必要がある

という条件を満たすことが絶対、かつ
⑤それなりのインパクトを持たせる打診移動中合ならば角や桂で表現したいが、その場合は歩合を早詰にしなくてはいけない、
 これが非常に難度が高い。これを二歩で割り切ろうとするとミエミエになってしまいがちなんですよね。何個か作ってみたのですが、どうしても原理図みたいな感じになってしまう。今年順位戦に出したのがまさにソレでして、実は他にも少しマシなものも作ったのですが、もうちょっとなんとかしたくて、敢えて元々あった原理図の方を出品したワケです。ただ、納得いかないまま出すのはやっぱり後悔してまして、残りの図の方はまだまだ練らないとな、と。

 そうしたところに、12月号の結果稿を覗いてみたら、この記事の冒頭で図を掲示した弘中氏作の短編が。何がビックリしたって、『53角の隣にいる43馬を44馬と打診移動中合する』という唖然とするような応手をアッサリ実現していること。どうやったらそんな手順成立できると思います?タネが分かったとき、愕然としました。ポイントは打診移動中合を取る以外の手順で詰む順を用意すること打診移動中合にその順への抵抗の意味合いを兼ねさせることで、これで他合の変化もそして王手をした駒を取る順も全部クリアしていること。実は上で示した条件の内、④は絶対条件でなかったのです!
 いや、目から鱗とはこのことなのですが、ただ、『打診移動中合を取る以外の手順で詰む順がある、ということは、そもそも打診移動中合出す前にその順に行った場合は詰まないようにしなくてはいけないんですよね。打診移動中合自体の構図も結構難しいというのに、そんなムシの良い舞台そうないはずなんです。弘中氏作の優れているところは、25香の意味が単なる開き王手というだけでなく、もう一つの詰む順(26歩)を行うための手であるという巧みな舞台設定。この発想には参りました。これはもう、短編作家として脱帽するしかありません。序奏も入って収束も飛捨てでピタリ。いや年の瀬に良いものを見させてもらいました。
 というわけで、最後に手順を動く将棋盤で紹介。ぜひ皆さんも、この作品の素晴らしさを味わっていただければと思います。では。

 

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